失うものは何もない、敗北の味を知った王者はいった。今日と違った明日にします、寂れた店内で王家専属料理人の娘はつぶやいた。復活を賭けて。
イラスト分野/アート&イメージ/ 炎と香りの料理人15


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Before



アート&イメージ
炎と香りの料理人
料理でボクシングを語るシリーズ2

・文中のモデル料理人の店
ネパール料理店サンサール

・7年で350回以上通いつめたレポート
サンサールでお食事

Making of 炎と香りの料理人



開幕の舞台は玄人客が「都内最高峰」と唱う異国のレストラン。

その店の名は『世界』という。

中国の炎を父に、インドのスパイスを母に、
王家専属料理人の娘が作る料理は、皆が食欲が湧いて心楽しく元気になる家庭の味だ。

その料理はある時は熱くまたある時は冷たくと、温度差のスウィングを得意とし、異国のスパイスはさながら高速の万華鏡の連打‥‥私の味覚はもとより5感を奔流のように快美に刺激する力があった。

骨付きチキンカレーの熱く辛く芳醇なこくが、まぶたに鮮やかな映像を蘇らせる。

   夏。  赤。    

聖地後楽園の熱いスポットライトの中に、真紅の王者は君臨していた。

クールで黒いスープはスパイシーな酸味をもって次の料理への食欲をかき立てる。
まるで待ちかねた満場のファンの期待と驚愕を渇望の域まで湧かせるスター選手のごとくに。

店と料理人達は、炎と香りの比類ない腕前を惜しみなく披露し、「神業」「伝説」と讃えられ、「聖地」と憧憬を込めて囁かれた。陽気で無敵の牙城は栄えたのだった。

しかし、どちらにも氷河期が来る。
運命の女神は「神業」「伝説」を、双方の王者から連れ去ってしまうのだった。

料理研究家のスージー氏はこう記す。
「案の定、多くのマニアは失望した。かれらにとっては「神業」が去ってしまった店には、なんの意味もなかった。、またしても客が減っていった、潮が引くように。マニア客の情報伝搬はおそろしく速く、40席のレストランはすぐにガラガラになっていった。
一日の仕事を終え、調理場を片付け、まかないを食べ、レジを締め、シャッターを降ろすとき、彼女の頬に、涙がこぼれた。」

それから、王家専属料理人の娘はすべてを了解し、覚悟を決めた。

「あしたは必ず、きょうとは違った日にします。」と。

なぜならば、彼女の店の名は、『世界』なのであった。

そして、また、後楽園で敗北の味を知った王者も。
「失うものはなにもない。」

氷河を迎え撃つ者達よ。
そのつぶやきに1点の曇りでもあらば、勝機を呼び込めまい。

     ゴングが鳴る。

     そう王者の存亡を賭けた戦いの。

そして押し寄せる真赤な応援の波を背中で受けた料理人達が、、リングに現れた。

中国の炎は、決して退かないパワーと熱した魂を注ぎ込み、
インドの香りは小手先を許さず、響くワンツーの音とバネのようなステップインに変わった。

今度挑むのは、東方の島国の名をもつ者たち。彼女が大好きな赤をまとった10人が。

勝ち取るものは復活。

その名は、その国の名は-------

2006.7.25


2005.7.9後楽園にて 関東大学ボクシングリーグ戦
日本大学/チーフセコンド、藤蜜 泰助、部員達

快く転載と参照を了解してくれた、写真家兼コピーライター、そして何よりも料理人を愛するスージー氏ヘ感謝を込めて。

1部リーグでリングに上がる選手は9人。プラスセコンドで計10人と数えました。

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