赤い扇が舞落ちた時、故里を後にして朝焼けの向こうの旅が始まった。
イラスト分野/ア-ト&イメージ/ススキヶ原に扇は舞う17


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Making ofススキヶ原に扇は舞う


「あ、これは?あの時の?最終戦の?」

今はしがない日本ランカーの1人ですと謙遜する、大学ボクシングの王者の胸に、パラダイスのさざ波が打ち寄せてきているのを感じたのだった。

だから、言うつもりもなかったストーリーを私の唇はつむぎだしていた。
後楽園の大声援の中、硬い板で作られた階段状の応援席で。


むかしむかし、その昔。
ススキしか生えないススキヶ原というところがあったんだそうな。

十五夜の頃は、黄金の盆のような満月にススキの穂が銀色にきらめいて、それはそれは美しかったそうな。

いつの頃からか、その美しさがゆえに、そこにはつわものどもが己の剣を試そうとひとり二人と集まって、刃と刃がうち鳴らす音が響くようになったのだそうな。

時に凍てつき、時に熱く燃え上がるススキヶ原になった。

そして、長年の好敵手共が揃って合いまみえた、ある夜明け前の決戦。

剣士達の誇りと汗と涙を吸い込んだススキヶ原に、赤い扇が舞った。

それを見たある若武者は、何かが終わったのを知った。
見上げれば、遠い故里が浮かびながらも、東の空には朝焼けに誘う何かが自分を呼んでいる気がしたそうな。

それでその若武者は、故里を後にして、朝焼けの向こうに旅に出たのだそうな。
希望、という日の出を目指した旅に。

「この作品にはね、こういったお話がつくの」

ジッと耳を傾けていた静かな王者は、微笑んで
「俺はこれが一番気に入りました」と
切れ長の目で嬉しそうに語った。。

その言葉を待っていたかのように、私のただ1人の相棒のカメラは、

満足げに、ゆっくりと、そのシャッターを閉じた。1000分の1秒を得意げにウインクしていたそのシャッターは、2度と開かなくなった。

撮影を中断して、泣きそうになりながら持ち込んだ相棒専用の店。

     この傷とこの壊れようで、、

     こいつは、『死んでから2年生きていた』のですかと、

カメラの技術者達は、深く沈黙したのだった。
ここでも扇は舞落ちた。終わりを告げる扇だった。

2年ぶり、偶然がもたらした3度の再会を祝して、そして、失った愛する相棒のためにメタモルフォーゼの一品。
ゆっくりとお味わい下さいませ。

2007.7.22


2005.後楽園にて 関東大学ボクシングリーグ戦
東京農業
大学/五十嵐 俊幸

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