| イラスト分野/ア-ト&イメージ/ススキヶ原に扇は舞う17 |
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今はしがない日本ランカーの1人ですと謙遜する、大学ボクシングの王者の胸に、パラダイスのさざ波が打ち寄せてきているのを感じたのだった。 だから、言うつもりもなかったストーリーを私の唇はつむぎだしていた。
十五夜の頃は、黄金の盆のような満月にススキの穂が銀色にきらめいて、それはそれは美しかったそうな。 いつの頃からか、その美しさがゆえに、そこにはつわものどもが己の剣を試そうとひとり二人と集まって、刃と刃がうち鳴らす音が響くようになったのだそうな。 時に凍てつき、時に熱く燃え上がるススキヶ原になった。 そして、長年の好敵手共が揃って合いまみえた、ある夜明け前の決戦。 剣士達の誇りと汗と涙を吸い込んだススキヶ原に、赤い扇が舞った。 それを見たある若武者は、何かが終わったのを知った。 それでその若武者は、故里を後にして、朝焼けの向こうに旅に出たのだそうな。 「この作品にはね、こういったお話がつくの」 ジッと耳を傾けていた静かな王者は、微笑んで その言葉を待っていたかのように、私のただ1人の相棒のカメラは、 満足げに、ゆっくりと、そのシャッターを閉じた。1000分の1秒を得意げにウインクしていたそのシャッターは、2度と開かなくなった。 撮影を中断して、泣きそうになりながら持ち込んだ相棒専用の店。 この傷とこの壊れようで、、 こいつは、『死んでから2年生きていた』のですかと、 カメラの技術者達は、深く沈黙したのだった。 ゆっくりとお味わい下さいませ。 2007.7.22 東京農業大学/五十嵐 俊幸 |